イタリア漆喰 ラスチコ

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創業期ものがたり 第 9 話

第 9 話   家 出                
    
     
昭和20年8月15日敗戦の時、15歳になったばかりのシゲオは。 義務教育期間も、とうに終わり、いちおう、”家業を手伝っている”という”たてまえ”でした。
2つ年上の兄・茂は、ずっと農作業や家畜の世話をしつつ、俊次の瓦製造の現場でまじめに手伝いをしていましたが、シゲオは、農作業や現場での作業は極めて適性がなく、”家業を手伝っている”と言っても、店番をしつつ、本や新聞を見たり、もめ事に首を突っ込んだり、まぁ言うと、”事務方”として客観的に言うと、”フラフラしていた”と本人も認めています。
茂男は敗戦と同時に、「東京へ行って夜学に通うんだ!」という強い意志を持っており、そんな事を両親に相談しても反対される事は判っていたので、「とりあえず家出だ!」と、ひとり心に秘め、機会を狙っていました。
暑かった夏が終わり、10月になると、シゲオが店番で密かに”貯めていた”(という表現が正しいかどうかは別として)お金が約5,000円に達していました。
(シゲオとしては、旅費と学費、就職までの東京での滞在費としては十分な額という判断でした)
・・・家出決行! です。軍資金と着替えを入れた鞄一つで、「良くて次の正月、もしかしたら数年は帰って来ないかもしれない。落ち着いてから家に手紙を書こう。」と、心に決め、シゲオは、誰にも何も言わず、播但線に乗りました。
姫路駅から大阪駅まで3時間、当時、東京駅までは最短でも12時間。
汽車の中では座れる事もありましたが、各駅に着くごとに、満員乗車の大量の人の動きがあり、立ったり座ったり、脇に避けたりの繰り返しです。
大阪を出た後、にぎりめしの駅弁を売っていたので、汽車を降りて買いました。座席に座れるほどの状態だったので、食べようと思いました。すると、短時間の間に同じ車両の人が一人ふたりと、立って違う車両に移動してしまうのです。両隣の人も、前の人も・・・・。 よっしゃ・好都合!!食べるぞ!と、にぎりめしを広げたとたん、汽車は長いトンネルに入り、シゲオ、しばらく視界が真っ暗になりました。 そしてトンネルを出ると、なんとにぎりめしは、ススと灰で真っ黒に、おまけに着ていた白シャツもススでグレーになっているではありませんか! 
他の乗客は、ススだらけになる事を知っていて、窓を閉め切ってある車両に移動したのでありました。これまでの人生の中で「トンネルのお作法」など知らなかったシゲオ、にぎりめしは後回しにするとして、東京へ行くのにススけたシャツはまずいだろ・・・と、次の駅で降り、構内の蛇口でシャツを洗いました。
これまで大きな駅だと思っていた途中の各駅周辺は、いずれも、シゲオが想像できた範囲よりもずっと焼け野原の状態でした。

そして、生まれて初めての東京駅でシゲオが見たのもやはり、ズタズタの駅、焼け野原とバラックでした。
定職を見つけて、夜勉強できる法律の学校に通う というシンプルな思いだけで、なんのツテも情報もなく単身の上京は、無謀だったと思い知ります。
法律の専門学校の張り紙を見つけて、訪ねてみても実態がなかったり、入学金が法外に高すぎたり、第一、職がありません。もちろん仕事の好き嫌いを言える状況でないのはシゲオも覚悟はしていましたが、時は、敗戦後1か月少々の混乱期。 右も左もわからない地で、15歳の子供が、自分で生計を立てつつ夜学に通うという事の厳しさにシゲオは直面しました。
東京でまる3日、駅の構内とバラックの宿屋で寝泊まりして歩き回り、さっさと結論を出し、仕切り直しです。

「こりゃアカンわ!」・・・”大都会”と思っていた東京ですら想像以上にボロボロになっている今、法律なんか勉強できる状況ではない。橋やトンネル、ごっついビルを建てられる人間にならんとあかん!と、状況把握が出来た時、シゲオは、パッと目の前が開けたのでした。
汽車に飛び乗り、家路を急ぎました。

シゲオの家出は、のべ5日くらいで、”東京の状況を視てきた”という事になっていました。不在中の家では、そろそろ両親ともに心配するようになっていましたが、5日目に帰って来たので大した問題にはなりません。 家出だったとは、誰も思わなかったのでした。
俊次は、東京の様子を見てくることも社会勉強だ、という気持ちもありましたし、ちかも、シゲオが約5,000円という、当時の大金を持ち出したこと自体を責めるつもりはありません。 ただ、俊次は、ちかに、「この時期に、”東京の様子を見てくる”なんぞということは、ワシも思いつかんかった。あの子は、こんなとこで瓦を作るだけで終わる子やないか知れへん。」と言い、ちかも全く同じでした。
     
      
        
          
       
次へつづく・・・ 第 10 話 「 次の家出 」 http://d.hatena.ne.jp/mikamsmatuuu/20131003
 
         
            
       
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